終活に向けて「いま」できること

-老後・死後に備えた法的制度のご紹介-

はじめに

政府の統計によると、我が国における65歳以上人口は3640万となり過去最多を記録しています(2021年現在)。
他方で、65歳以上の6人に1人は認知症であるというデータもあります。
ご本人の判断能力が低下してしまった場合には種々の問題(リスク)が発生し得ます。たとえば、ご家族が善意でご本人の預金を引き出してご本人の生活費に充てた場合には、後々、他のご家族の方から「不正出金だ」などとして訴訟を提起されるというリスクもあります。特に経営者の方にとっては、ご自身が財産管理を適切に行えなくなってしまうことは、ビジネス上も深刻な問題となるでしょう。
このような問題意識から、本コラムでは、判断能力が低下した場合の備えや老後・死後に関連する以下の法的制度を順にご紹介します。

  • 任意後見制度
    判断能力が低下したときの財産管理はどうなるのか?元気ないまだから利用できる制度をご紹介します。
  • 遺言書
    遺言書はなぜ重要なのか、遺言書はいつ作成すべきなのかについてご説明します。
  • 死後事務委任
    死後のペットの飼育、葬儀・散骨・納骨の方法、スマホ内の写真等のデータ処分などを委任することができます。
  • 事業承継
    大切に育てあげた会社をどのようなタイミングで、どのような方法で、誰に対して、承継させていくか、税務はどのように考えるべきかなど、事業の承継のあり方についてご説明します。

なお、ご紹介する内容はいずれも一般論にとどまるものであり、個々のご相談については個別にお問い合わせフォームまたはお電話からご予約・お尋ねいただければと存じます。

財産管理契約

財産管理契約とは

財産管理委任契約とは、委任者が、受任者に対し、委任者の現預金の管理、不動産収入、各種支払い等を委任する契約のことをいいます。

利用場面

たとえば、判断能力に問題はないものの、体調や判断能力に自信がなくなってきた場合、信頼できる人に対し、自分の財産管理を任せたいという場面があるかと思います。このような場面で利用が検討されるのが財産管理契約です。
あるいは、自分の財産が周囲の人に奪われるという心配があるという場面では、信頼できる人に預金通帳等を預けることで、自分の財産を守るという利用方法も考えられます。

留意点

もっとも、財産管理契約は、本質的には通常の委任契約にすぎないため、受任者が銀行窓口で預金を引き出そうとしても、銀行がこれを認めてくれない場合があります。
また、財産管理契約は受任者を監督する人がいなくても作成できてしまうため、受任者が横領するという事態もあり得ます。そのため、本当に信頼できる人を受任者として選定するか、あるいは受任者を監督する第三者を交えた財産管理契約の作成を検討することになります。
財産管理契約を利用する場合には、これらの留意点について知ったうえで、専門家のアドバイスを踏まえて、ご検討いただくのが良いでしょう。

財産管理契約と任意後見契約の相違点

財産管理契約と任意後見契約の大きな違いは、利用できる時点(効果が発動する時点)が違うということです。
任意後見契約は、ご本人の判断能力があるうちに締結しますが、その効果が発動するのはご本人の判断能力が低下した時点です(詳しくは後述します。)。
他方で、財産管理契約はご本人の判断能力があるうちに締結し、これによってその効果が発動するものです。
両者にはこのような違いがあるものの、両者は、第三者にご本人の財産管理等を任せるという点において類似します。
そのため、財産管理契約の受任者及び任意後見人を同一人物に指定しておき、判断能力があるうちには財産管理契約を利用し、判断能力が低下したときには任意後見契約を利用することで、一貫したサポート体制を整えるということもあります。

まとめ

以上のとおり、財産管理契約は万能なものではありませんが、自身の財産を守るという意味においても意義のある方策といえます。
財産管理契約のご利用をご検討される場合には、ご本人の状況に応じて財産管理契約の利用が適しているのか否かを踏まえたアドバイスをさせていただきます。

任意後見制度

任意後見制度とはどのような制度か?

後見人がご本人に代わり財産管理などを適切に行うことによって判断能力が低下した方を保護する制度として後見制度があります。
この後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の2種類があります。
もっとも、法定後見制度は、
①将来判断能力が低下してしまった場合に対する事前の準備としては機能しない、
②後見人を自らの意思で選ぶことができない、
③後見人に委託する事務の範囲について自らの意思で決定することができない、
④一度利用を開始すると利用を止めることができないなどといった不都合があります。
これらの不都合な点を解消するのが任意後見制度です。任意後見制度の特色として、以下の点が挙げられます。

■事前の備えとして利用できる
判断能力があるときに、任意後見契約を締結することで、将来判断能力が低下した場合に備えることができます。

■任意後見人を自ら選ぶことができる
任意後見制度では、信頼できる人(弁護士など)を任意後見人に選ぶことができます。

■ご本人が委託したい事項についてのみ委託できる
任意後見制度では、契約自由の原則に基づき、任意後見契約で決めた特定の事項についてのみ委託することができます。

■任意後見契約の効果発動前においては、いつでも解除できる
ご本人は、任意後見契約の効果が発動する前(任意後見監督人の選任前)であれば、いつでも任意後見契約を解除することができます。

任意後見制度の仕組み

任意後見制度は、ご本人と任意後見人になる者(弁護士など)との間で締結される任意後見契約という契約を基盤にしています。残念なことに、近年、後見人がご本人の財産を横領するなどの事例が報告されています。このような違法行為を防止する観点から、任意後見人を監督する任意後見監督人が制度上設けられています。任意後見人は任意後見監督人に対し定期的に業務内容を報告し、任意後見監督人はこれを裁判所に報告し、裁判所に判断してもらうことで、任意後見人による健全な委託事務の遂行を確保することが期待されています。

任意後見制契約の締結から発動までの流れ

任意後見制度の利用の流れは、任意後見契約を公証役場で締結するところから始まります。ただし、任意後見制度は、通常、将来に備えた契約であるため、契約を締結しただけではその効果は発動しません。任意後見契約が発動するまでには以下の流れを辿ります。

まとめ

任意後見制度は、判断能力が低下した場合に対する事前対策として非常に有用であり、任意後見制度の利用件数は増加傾向にあります。ご家族に迷惑をかけたくないという想いから、利用を検討・開始される方も多いように感じます。
ご利用をご検討の方は、ご遠慮なく、お問い合わせください。

遺言

概要

多くの方は、「遺言書を作成することは大事である。」、 「遺言書を早めに作成するに越したことはない。」ということそれ自体はご存知であるかと思います。しかし、なぜ、遺言書を「早め」に「作成」することが重要であるのかを理解している方は多くはないかもしれません。
ここでは、遺言書を「早め」に「作成」しなかった場合の問題点を概観します。皆様の相続対策の役に立つことができれば嬉しく思います。
なお、遺言書の種類については公正証書遺言、自筆証書遺言などがありますが、ここでは最も紛争になりにくいとされる公正証書遺言を前提にお話します。

遺言書を「作成」することの重要性

~遺言書を作成しなかった場合、相続手続きはどうなるのか?~
遺言書を作成しなかった場合には、通常、以下の流れを辿ります。
①相続人調査(被相続人の出生から死亡に至るまでの全ての戸籍謄本を取り寄せる)を通じて相続人を確定させる
②財産調査によって相続の対象となる財産を確定させる
③相続人全員による遺産分割協議を行う
④協議が整わなかった場合には、家庭裁判所に対し遺産分割協議調停を申し立てる
⑤調停が不成立に終わった場合には、遺産分割協議審判に移行し、裁判官の判断を仰ぐ

文字にすると短く感じるかもしれませんが、これらの手続のなかでは様々なリスクが発生します。

■相続人調査に漏れがあると遺産分割協議が無効となること
・遺産分割協議書を作成した後に、新たに法定相続人が見つかった場合には、せっかく時間と労力をかけて作成した遺産分割協議は無効となり、新たに見つかった法定相続人を含めて遺産分割協議をやり直す必要があります。

■財産調査に漏れがあると遺産分割協議を再び行う必要があること
・新たに相続財産が見つかった場合には、新たに見つかった相続財産についての遺産分割協議書を新たに作成する必要があります。

■相続完了まで数年かかる可能性があること
・特に不動産などについては、その評価方法・評価額などを巡って争いが激しくなることがあります。
・遺産分割協議は合意のもと成立するため、合意に至らない場合には、裁判所を介した手続(調停・審判)をとる必要があります。
・遺産分割協議だけでも数年に及ぶことがあります。
・調停や審判に移行した場合により時間がかかります。

■ご本人の意志が尊重されるとは限らないこと
・遺産分割協議はあくまでも相続人間の話し合いで行われるため、ご本人が特定の財産を特定の人に遺したいという気持ちを持っていたとしても、必ずしもご本人の気持ちが実現されるわけではありません。

■紛争(「争族」)に発展するリスクがあること
・遺産分割協議、調停、審判を過程のなかで、話し合いがこじれて法的紛争に発展することもあり得ます。

■相続完了まで相続財産を使用できないこと
・遺産分割協議、調停、審判の決着がつくまでは、相続人は相続財産を自由に使用・処分できないおそれがあります。たとえば、相続人が相続財産(被相続人の預貯金)から、相続税の支払いを行うことはできないないどの経済上の不都合が生じ得ます。
*民法改正により法定相続人は被相続人の預貯金を一定程度引き出すことができるようになりましたが、その額は最大でも150万円とされています。

まとめ

これらの問題点を避けるためにも公正証書遺言を作成しておくことは非常に有用といえるでしょう。また、公正証書遺言のなかで、遺言執行者を定めておくことによって、遺言書の執行(遺言書内容の実現)を当該遺言執行者に任せることができます。

遺言書はなぜ「早め」に作成すべきか?

遺言書を作成するには「遺言能力」が必要です。一般的に、遺言能力は15歳程度の判断能力とされていますが、認知症などにより判断能力が低下している場合には、この遺言能力がないと判断される結果、公正証書遺言を作成することができない場合があります。また、判断能力が低下してから遺言書を作成した場合でも、ご本人の死後、ある相続人が「あのときお父さんは判断能力がなかったはずだ。」と主張して、作成された遺言書が無効であることの確認を求めて訴訟を提起するリスクもあります。
これらのリスクがあるからこそ、遺言書は元気なうちに「早め」に作成する必要があります。なお、一旦作成した遺言書でも、これを取り消して、新たな遺言書を作成することは可能です。

まとめ

遺言書を用意しておかなかった場合には、残されたご家族が大変な思いをすることは珍しくありません。「家族には迷惑をかけたくない」という想いや特定の人・団体(母校や医療団体など)に財産を遺したいという気持ちから遺言書を作成する方は多いように感じます。実際、公正証書遺言の作成件数も増加傾向にあるようです。
遺言書作成をご検討の方はご遠慮なくお問い合わせください。

死後事務委任

死後事務委任契約とは?

この項目では死後事務委任契約についてご紹介いたします。
「遺言」に比べると、「死後事務委任契約」という言葉は、あまり耳慣れない言葉かもしれません。死後事務委任契約は、一般的に、ご本人の死亡後における事務処理をご本人の希望に従った形で行うことを目的とした委任契約のことを指します。
日本では2010年頃から「終活」という言葉が広まりましたが、その背景には、ご家族の負担を減らしたいという思いの高まりや、ご本人の死後の事務処理について信頼できる人に任せたいという需要の高まりがあるのかもしれません。特に最近では、携帯・スマホ・パソコン等のパスワードを特定の人(弁護士など)に知らせておくことによって、「デジタル遺品」への対応をケアしておきたいというニーズも高まっているといわれています。
これらのご希望に応えるのが死後事務委任契約です。

何を委任することができるのか?

たとえば、ご本人の死後における以下の事務について委任することができます。
➢入通院費等の各支払い
➢入院保証金の受領
➢役所、親族に対する死亡した事実の連絡
➢葬儀、散骨、納骨の方法
➢ペットの飼育に関する事項(たとえば、特定の親戚に愛犬の世話をお願いするなど)
➢携帯電話・パソコンのパスワード解除、データ処分など

遺言書とは何が違うのか?

遺言書は相続財産の承継を内容とするものです。これに対し、死後事務委任は役所への死亡届の提出などのような事務処理を内容とする点に、遺言書との違いがあります。
そのため、遺言書では死後の事務処理についてはカバーすることができず、他方で死後事務委任契約では相続財産の承継についてはカバーすることができません。したがって、遺言書と死後事務委任契約はセットで作成することが検討されます。
なお、死後事務委任契約を締結していなかった場合、ご本人の死後の事務所については、通常、ご家族・ご親戚の方が自ら行うことになります。

まとめ

パソコンやスマホ内の写真などのデータを信頼できる人に削除してもらいたい、愛猫・愛犬など家族の一員と呼ぶべきペットの飼育を信頼できる人・団体に任せたい、あるいはお葬式やご遺骨の取り扱い(散骨・樹木葬・納骨堂の利用など)についてご本人の意志を反映させたい場合には、死後事務委任契約の検討をすることになります。 ご検討の方はご遠慮なくお問い合わせください。

事業承継

概要

会社経営者の方は、ご自身の判断能力が低下した際、会社やビジネスがどうなるのかという点が強い関心事かと思います。
ここでは、事業承継を念頭に、そのような不安を解消するために検討すべき事項を取扱います。

会社の(代表)取締役の判断能力が低下した場合

現在、会社の(代表)取締役を務めている方が、判断能力の低下などによって成年被後見人又は被保佐人と判断された場合には取締役を退任することとされています。この場合、他に取締役がいれば、他の取締役のなかから代表取締役を選任することになります。
注意が必要なのは、(代表)取締役が1名であり、かつ当該取締役が唯一の株主(100%オーナー)のような場合です。この場合も当該取締役は退任しなければなりません。問題は、新たな取締役は株主が株主総会で決めなければならないところ、その(唯一の)株主の判断能力が低下しているため新たな取締役が選任されないという事態が発生し得るということです。
ご家族等が法定後見制度を利用して、ご本人(唯一の株主)のための法定後見人が選任された場合には、その法定後見人が議決権を行使して新たな取締役を選任することになりますが、その法定後見人が会社の後継者として適切な人物を取締役として選任できるかという点には大きな疑問があります。
このように、事業承継について早い時点から対策を講じておかなければ、会社の経営上重大なリスクをもたらすといえるでしょう。

事業承継全般

事業承継の内容は個別具体的に行われますが、主に①後継者の選定・育成を進め、②後継者候補者に対しどのようなタイミングで、③どのような方法で株式を譲渡するのか、④会社の支配権は維持するのか(黄金株の発行等)、⑤優先配当は受けるのか、あるいは⑥第三者への売却は行うのかなどといった点を検討することになります。
このうち②タイミングについては、「直ちに譲渡する」、「暦年で譲渡する」、「相続時に遺言等を利用し譲渡する」といったことが考えられます。
また③方法については、「売却」、「贈与」、「報酬」としての譲渡などの方法が考えられます。この辺りは税務も大きく絡んでくるため税理士と提携して事業承継の計画を練ることになります。 ④会社の支配権の維持や⑤優先配当を受けるか否かは、経営者の方のご希望を実現できるよう株式を設計することになります。
また、後継者が見つからないなどの問題から、身内や従業員への事業承継を検討するのではなく、⑥第三者への売却を検討する場合もあるでしょう。この場合にも、企業価値(バリュエーション)を算定する必要があるため、税理士や会計士と連携の上、遂行することになります。

まとめ

経営者の方からは「私にとって会社は我が子と同じだ。」、「従業員の生活に対する責任があるのだ。」というお言葉を耳にします。経営者の方が育て上げた会社を経営者の希望する形で次の代にバトンタッチできるようサポートして参ります。
事業承継についてご検討の方はご遠慮なくお問い合わせください。

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