公正証書遺言の作成手続の流れ、費用、公証人の出張

今回のコラムでは、①公正証書遺言の作成手続の流れ、②公正証書遺言の作成費用、③公証人の出張についてご紹介します。

公正証書遺言の作成手続の流れ


(1) 委任契約書の締結
公正証書に限らず弁護士を通じて遺言の作成をご検討される場合、まずは弁護士との法律相談を行います。この法律相談では、公正証書遺言について説明をしたり、公正証書遺言の作成費用に関する説明をしたりしたうえで、ご本人の財産の種類や親族関係等について確認したり、必要となる資料の確認等をします。
この法律相談の結果、ご依頼されるとなった場合には、弁護士との間で遺言作成に関する委任契約書を締結します。
ちなみに、弁護士が法律事務を受任する場合には、委任契約書を作成する義務を負っていますので、万が一、委任契約書の作成がされないような場合には委任契約書の作成を求めるようにしましょう。
弁護士職務基本規程第30条
弁護士は、事件を受任するに当たり、弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成しなければならない。ただし、委任契約書を作成することに困難な事由があるときは、その事由がやんだ後、これを作成する。

(2) 遺言作成に向けた具体的な流れ
さて、話を戻して、委任契約書を作成したら、公正証書遺言の作成に向けた活動が始まります。
この辺りは同時進行に進むことになりますが、まずご本人からのヒアリングをもとにご本人の財産の一覧表を作成し、その財産の存在を示す資料を収集します。たとえば、預金であれば預金通帳、不動産であれば固定資産評価書または固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書といった資料を収集します。また、ご本人の戸籍謄本も取得します。
そして、ご本人のご意向にしたがって、誰に、どの財産を、どのような割合で取得させるのかということを決めます。
このようなご本人との打合せの結果を踏まえて、弁護士が公正証書遺言の文案を作成し、この原案を公証人に送り、文案を確定させます。
その後、ご本人と弁護士と公証人の予定を調整し、公証役場を訪れる日を決めます。また、公正証書遺言の作成には証人2名(通常は弁護士2名)が必要とされるため、公証役場を訪れる当日には、通常、ご本人と弁護士2名が公証役場に行きます。なお、訪れる公証役場は通常、ご本人の住所の最寄りの公証役場となりますが、ご本人の訪問が難しい場合には公証人に出張してもらうこともできます。
そして、公証人がご本人に対し公正証書遺言の内容を読み聞かせ、ご本人の意思に違わないことなどを確認したら、ご本人と証人(弁護士)2名が署名・捺印をし、最後に公証人が署名・捺印をし、これをもって公正証書遺言を完成させます。

(3) まとめ
公正証書遺言を作成する流れを簡単にご紹介すると以上のようになります。実際には、どのような財産を保有されてるかご本人も正確に把握されていないこともあるので、資料の収集に時間を要することもありますが、資料の収集が円滑に実施され、また遺言の内容も複雑なものでなければ、ご依頼から1か月ほどで完成する場合が相当あるように思います。
「1か月も待てない。」という緊急の場合には、ひとまず自筆証書遺言を作成することも検討されますので、ご事情に応じたご提案をさせていただければと思います。

公正証書遺言の作成費用

(1) 公正証書遺言を作成する場合、公正証書費用を作成する場合、その費用は大きく①公証人の手数料、②弁護士費用、③実費の3種類に分けることができます。
以下、順にご説明します。

(2) 公証人の手数料について
  • 概要
    公証証書遺言は最終的には公証人が作成するため、公証人の手数料費用が発生します。そして、この公証人の手数料は「公証人手数料令」という法令によって決められています。以下の<表>は公証人手数料令の一部を抜粋したものであり、公正証書遺言における公証人の費用はこの<表>に基づき決められます。なお、「目的の価額」とは相続財産の価額のことを意味します。
    <表>
    目的の価額手数料
    ~100万円以下5000円
    100万円超~200万円以下7000円
    200万円超~500万円以下1万1000円
    500万円超~1000万円以下1万7000円
    1000万円超~3000万円以下2万3000円
    3000万円超~5000万円以下2万9000円
    5000万円超~1億円以下4万3000円
    1億円超~3億円以下4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額
    3億円超~10億円以下9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額
    10億円超~24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額
    公証人の手数料は、財産を譲り受ける人ごとにその財産(目的)の価額を算出し、これに対応する手数料額の合計額となります。
    なお、全体の財産が1億円以下のときは、算出された手数料額に、1万1000円が加算されます。これを「遺言加算」といいます。

  • 具体例/シミュレーション
    たとえば、相続財産1億円を保有されている方が、その配偶者に5000万円、子に5000万円に相続させようとした場合は、公証人の手数料は以下のようになります。
    内容公証人の手数料
    配偶者に5000万円2万9000円
    子に5000万円2万9000円
    遺言加算1万1000円
    合計6万9000円
    なお、この他にも細かい手数料が発生することがあります(公正証書遺言の枚数が3枚を超える場合には4枚目以降について1枚あたり250円の手数料が発生するなど)。ここでは割愛します。

(3) 弁護士費用
公正証書遺言の作成にかかる弁護士費用については、内容の複雑さなどにもよりますが、通常、10万円~20万円が目安となります。
なお、遺言のなかで遺言者執行者として遺言作成に携わった弁護士を指定する場合が多いかと思いますが、遺言執行に要する費用は別途発生します。

(4) 実費
ここでいう実費とは、遺言作成の際に必要となる各資料(戸籍謄本等)の取得に要する費用等のことです。これらの資料はご本人がご自身で取得されることもありますので、大きな金額にならないこともありますが、この辺りは事務的な便宜も踏まえて決めることになります。

(5) まとめ
以上のように、公正証書遺言の作成に要する費用の大部分は①公証人の手数料と②弁護士費用になります。
そして、先ほどの【具体例】(相続財産1億円を保有されている方が、その配偶者に5000万円、子に5000万円に相続させようとした場合)を前提とすると、公正証書遺言の作成に費用は概ね以下のようになります。
なお、実費については複雑でない事案を前提に0円とします。
内容公証人の手数料
公証人の手数料6万9000円
弁護士費用10万円
実費
合計16万9000円
「公正証書遺言の作成費用は高いのではないか?」という不安を持たれる方もいますが、いかがでしょうか?たしかに、自筆証書遺言に比べれば、公証人費用が発生する分だけ高くなることは否定できませんが、公正証書遺言の利点は何と言っても後に法的紛争の種に最もなりにくいという点にありますので、この利点をも加味してご検討いただくのが良いかと思います。

公正人の出張

(1) 公証人の出張の可否
公証人は、原則として、公証役場でその職務を行うことが求められています(公証人法第18条)。そのため、公正証書遺言を作成する場合、遺言作成者が公証役場に出向くことを要するようにも思えます。
公証人法第18条
①公証人は法務大臣の指定したる地にその役場を設くべし。
②公証人は役場においてその職務を行うことを要す。ただし、事件の性質が之を許さざる場合又は法令に別段の定ある場合は此の限に在らず。
しかし、ご本人の健康状態等によっては、公証役場に出向くことが困難な場合も十分に想定されるところです。そこで、公証人法は、公証人が公正証書遺言を作成する場合には、公証人法第18条を適用しないと定めています(公証人法57条)。つまり、公正証書遺言については、公証役場で作成することを求めていないのです。
公証人法第57条
第十八条第二項の規定は公証人遺言書を作成する場合に…適用せず。
したがって、公正証書遺言を作成する場合、公証人に遺言作成者の自宅や病院・施設に出張してもらうことができます。

(2) 公証人の出張に関する費用
  • 概要
    公証人が出張して遺言公正証書を作成した場合、手数料額の1.5倍が基本手数料となり、これに遺言加算手数料を加えます。さらに、旅費(実費)及び日当(1日2万円、4時間まで1万円)が生じます。

  • 具体例/シミュレーション
    たとえば、相続財産1億円を保有されている方が、その配偶者に5000万円、子に5000万円に相続させようとした場合において、公証人に4時間以内の出張をしてもらったときの手数料は以下のようになります。なお、実費は1000円と仮定します。
    公証人の手数料
    内容出張なし出張あり
    配偶者に5000万円2万9000円4万3500円
    子に5000万円2万9000円4万3500円
    遺言加算1万1000円1万1000円
    日当2万円
    実費1000円
    合計6万9000円11万9000円

(3) 公証人の出張に関する費用
以上のように、公正証書遺言は、公証人に出張してもらって作成することもできます。公証人に出張してもらう分、費用は高くなってしまいますが、それでも公正証書遺言を作成する意義は十分にあるように思います。

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