作成した公正証書遺言が死後に無効と判断されることはあり得ない?

-遺言能力を中心とした公正証書遺言の有効要件-

今回のコラムでは、公正証書遺言は作成してしまえば絶対・100%安心なのか?という観点からお話をしたいと思います。別の言い方をすれば、せっかく作成した公正証書遺言が無効と判断されてしまう場合はあるのか、あるとしたらそれはどのような場合なのかといった点について事例を交えながら見てみたいと思います。

公正証書遺言が有効であるための主な要件

公正証書遺言の作成上の大まかな主な要件は以下のとおりです。
(1) 遺言能力があること
(2) 遺言者の年齢が15歳以上
(3) 証人2人以上の立会い
(4) 遺言者による公証人に対する遺言の趣旨の口授
(5) 公証人による口授の筆記及び公証人から遺言者・証人に対する読み聞かせ・閲覧
(6) 遺言者・証人が筆記の正確なことを承認し、各自署名・押印すること
(7) 公証人が前各号に掲げる方式に従って作ったものであることを付記し、署名押印すること など

遺言能力について

上記(1)の遺言能力については、遺言を作成するにあたっては15歳程度の判断能力が必要であるということを抑えておきましょう(上記(2)~(7)については形式的な要件ですので割愛します。)。
遺言を作成するに際して遺言能力が求められる理由は、端的に言えば、15歳程度の判断能力がない場合には、遺言作成者に、誰に、どの財産を、どのような割合で遺すのかを考えて、決めるだけの判断能力がないため、遺言作成者の意思が正しく遺言に反映されないからです。別の言い方をすれば、15歳程度の判断能力がない場合には、周りの人の言いなりになって遺言を作成してしまうことさえ考えられるわけですが、法はこれを良しとしないわけです。
そして、結論として、公正証書遺言を作成した場合でも、遺言作成者の死後、たとえば一部相続人が「お父さんは、遺言作成時に遺言能力を有していなかった」と主張して、この主張が認められた場合には、作成された公正証書遺言は無効であるという判断が下ることになります。
なお、一部ホームページでは、あたかも作成された公正証書遺言は必ず有効であるかのような記載がありますが、これは誤った情報ですので注意しましょう(もっとも、公正証書遺言が、最も安心・安全な遺言の方式であることは間違いないといってよいでしょう。)。

公証人は遺言能力を確認する?

これに対して、公正証書遺言の場合、公証人が遺言作成者の遺言能力の有無を確認するのではないか?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。たしかに、公証人においては、遺言作成者の遺言能力に問題がないかを口頭のやり取りを通じて確認します。しかし、公証人は医者ではなく、また多くの場合公証人が遺言作成者と直接会って話す機会は公証役場で1回あるだけであり、遺言作成者の遺言能力に問題がないか正確な判断をすることは難しいため、公証人は遺言作成者の遺言能力を担保する立場にもありません。
したがって、公正証書遺言を作成したことをもって遺言作成者の遺言能力が絶対・100%保証されるということではありません。

まとめ

以上のとおり、公正証書遺言の作成にあたっても「遺言能力」があることが求められます。問題は、遺言能力というものが目に見えるものではなく、遺言能力の有無が必ずしも明確でない場合があるということです。このような場合には、次回コラムで初回する認知テストを事前に受けて、遺言能力に問題がないことを確認のうえ、遺言を作成するなどの方法が考えられます。
なお、遺言作成時における遺言能力の有無が微妙な場合に、相続人が遺言作成を強いることは危険ですし、なにより本人の意思に反するおそれすらあるので控えるべきといえるでしょう。
次回コラムでは、実際に公正証書遺言が無効と判断された裁判例をご紹介しつつ、認知テストについてお話したいと思います。

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