(1) 上記の3つの遺言の種類のうち、秘密証書遺言が用いられることはあまりないといってよいでしょう。これには大きく3つの理由があります。
第一に、通常、秘密証書遺言を作成する場合、遺言作成者は遺言の内容を知られることを望まないため、一人で作成することになります。しかし、有効な秘密証書遺言を作成するためには、所定の作成方法(様式)にしたがう必要があり、この作成方法を遵守しないと有効な遺言とは認められません。
第二に、作成方法を遵守していたとしても、作成した秘密証書遺言の記載内容に法的な問題があるという事態が懸念されます。たとえば、遺言においては相続財産を特定することが求められますが、その特定するための記載が十分でない場合には、法的な効力に疑義が生じ得ます。
第三に、秘密証書遺言を作成する場合、遺言作成者は家族等に遺言を作成した事実を知らせない場合も相当あります。そのため、遺言作成者が死去した場合、家族等が秘密証書遺言の存在に気が付くことなく(秘密証書遺言が実現されることなく)、相続が進められてしまうおそれがあります。
これらの理由から、実務上、秘密証書遺言が用いられることはほとんどないといえるでしょう。
(2) 反対に、自筆証書遺言が用いられることもあります。
自筆証書遺言は、遺言者本人が遺言を作成するという点においては秘密証書遺言と同じです。ただ、自筆証書遺言は、秘密証書遺言と異なり、その内容を第三者が知らずに作成されることを前提としていません。そのため、自筆証書遺言を作成した事実を家族に伝えておくことで、遺言作成者の死後に遺言が発見されないという事態を防ぐことができます。
ただし、自筆証書遺言については、誰かが判断能力の低下した遺言作成者をそそのかして遺言作成者の意思に反する遺言を作成させたり、あるいは勝手に遺言を偽造してしまうという危険性がつきまといます。
(3) これらの危険性を考えると、やはり、公正証書遺言が最も安心・安全といえるでしょう。
公正証書遺言は、弁護士等の専門家が必要な書類の収集し、遺言内容の文案を作成し、公証人と協議を行い、最終的にはこの協議を踏まえて公証人が作成します。公証人は本人確認や本人の意思確認等も行いますので、公正証書遺言は、遺言作成者の死後に遺言の有効性が問題になる可能性が最も低い種類の遺言といえるでしょう。
近年では公正証書遺言を作成することの重要性が浸透しつつあるようで、その作成件数は増加傾向にあります。